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監禁されながらテキスト記事を書いてみた

◾️発端

今、僕は綺麗なビルに監禁され記事を書いている。案内された部屋に入ったらこんな状態だった。すげえな。こんなことあるんだな。トイレとかどうするんだろ。

「それでは、よろしくお願いします。記事が出来たら連絡してください」

案内してくれた人はそう言って去っていった。それではってなんだよ。

どうしてこんなことになったのか。これは去年の12月まで遡る。



12月

弊社メディア『ぺらいちGANMA!』内容は自由で、毎月書いて頂く形で!
わかりました!!
頑張りましょう!
よろしくお願いいたします!

1月

出来ました!
「初詣っていつまで? 参拝のマナーとかわかる? お賽銭っていくら入れるの?」(2月公開)
編集部にも好評でした!ありがとうございます!来月もよろしくお願いいたします!
はい!こちらこそ!

2月

進捗いかがですか......?
今取材の交渉をしていて......もう少しかかります......すみません
いえ!お気になさらず!お待ちしております!

3月

どうですか......?
今急ピッチで進めてます!
お待ちしております!

4月

進捗は......
ほぼ出来てます!後はアウトプットするだけです!
お願いします!

5月

マキヤさん......?
もうじき完成です!
......

6月

こういう流れだ。こんな下手に出てきて監禁を要求するなんて。
これ趣味ですか?仕事ですか?
仕事です

よかったー趣味じゃなくて。
というわけで僕はGANMA!編集部に監禁されることが決まった。書かないなら書かせる、敏腕編集者の片鱗を覗かせる出来事だ。

ToDoアプリに予定を入れたので、朝起きたら「本日監禁」と表示された。
軽くため息を吐いて、監禁されるために西新宿に向かった。



◼️監禁なう

何を書けば良いんだろうと少し考えたが、外で撮影だったり取材は出来ないからテキスト記事を書くしかない。

どういう流れにしようかと考えて、すぐに構成が出来上がった。
実際監禁されてみるとわかることだが、すごく集中出来る。「集中できない」と悩む学生やフリーランスにおすすめである。

ストレッチしたりスマホしたりしていたら、N田さんがやってきた。
どうです?監禁は
デスゲーム主催者みたいなセリフだ。GANMA!はデスゲーム漫画が多いからきっとその影響だろう。
意外と集中できます
何よりです。無理言って会議室を8時間押さえた甲斐があります
熱意よ
ちなみにどんな記事を書くんですか?
テキスト記事で、稲田くんって友人と卒業旅行でタイに行った時のエピソードが結構使えそうなのでそれを
ほう。マキヤさんって普段どういう流れで記事作るんですか?
文章も下手ですしあんまこだわりとかないですけど、大学で脚本の勉強を4年してたので、構成を作ってから書いてます。

一番メインとなるエピソードから書いて、それに合わせて他の部分書きます
意外にちゃんと考えて書いてるんですね
基本的に僕が笑った時の話なので、転までに僕が笑った時と同じ心の状態に読者の方を持っていけるように足していきます。

それは状態をわからせるためのものなんですが、そこも読んでて楽しいようになるべくしたいですね......
なるほど
あとはなんでしょう、ドラマや映画と違って途中で簡単に離脱されてしまうので、

読み進めるのが苦痛にならないように文体軽くして難しい言葉使わないとか、でしょうか
マキヤさん漢検準一級持ってますもんね
知らない単語あると読んでる時引っかかっちゃうので使わないです。

ただ読後感がある方が綺麗な気がするので、スルスル読めるけどなんかテーマが統一されてると読後感出る気がします
大丈夫そうですね。記事の完成、楽しみにしてます
そろそろお腹空いたんで早く終わらせます

そして作業すること数時間。
ようやく記事が完成した。



◾️完成した記事

「グッドサービス」


今、監禁されながらこの記事を書いている。
閉じ込められる経験はあまりない、最後に閉じ込められたのはいつだっただろうか。そうだ、卒業旅行でタイに行ったときだ。

タイには出会いカフェがあることを知っているだろうか。
多くの場合で店内の女性と様々な交渉をして外に出ていくみたいなお店だ。日本にもある。

人生でタイには2回行ったことがある。

初めてタイに行った大学の卒業旅行。色々安いからって8人くらいで行った。

2日目に「ショッピング組」と「夜飲みに行く組」で別行動となった。
僕はお酒が苦手なのでショッピングに付き合い、飲みに行っている奴らのお土産まで代行で買わされ、ホテルでボードゲームをしていた。

しばらくして友人たちが帰ってきた。ほのかに石鹸の匂いがする。

「ゴーゴーバー行ったけどすげえ楽しかったわ」


ゴーゴーバーはタイにある大人の店だ。
番号札を付けた女性が踊ったりしていて、呼べば隣にやってくる(その時もお金は払うらしい)。
そして、お店にお金を払って外へ...という流れらしい。
こいつらそんなとこ行ってたのか。俺に土産買わせておいてそんな楽しそうなところに。

奴らはすごく満足そうな表情を浮かべていたが、ただ1人稲田だけは浮かない顔をしていた。
浮かない顔だが、頬にルパ●3世が付けられるような濃い口紅のキスマークが付いていてなんなんだよって思った。

「......外でタバコ吸ってくるわ」


そういってキスマークをつけた稲田は外に出た。
タイはタバコに関して厳しく、ホテルでは指定された場所でしか吸えない。
キスマークと浮かない顔のアンバランスさが気になり、僕はタバコに付き合った。


「なんでテンション低いの?キスマークなんなの?」

「あいつらは満足してたけど、正直、俺は全然楽しくなかった。口にキスしてって言ったのに頬にしかしてくれないし」


「気づいていたなら取れよキスマーク。ブスだった?」

「いや、すごく可愛かったよ。ただ......」


「ただ......?」


彼は少し溜めて、力強く言った。



「偽乳だった」



そこかよ。それでそんなテンション下げれるのかよ。

タイの女性にとって美容整形は身近な存在だ。特にそういったお店で働いている女性なら、顔にも身体にもメスが入っている可能性は高い。

「それだけじゃない」


稲田は続けた。


「愛が、無かった」



そりゃそうだろ。お前が英語喋れないから言葉も通じないんだぞ。


「しかも、2分で終わった」



それはお前の問題だろ。




「なあ、明日ってどういう予定だっけ」


タバコをフゥと長く吹かし、僕の方を見ずに稲田は言った。頬のキスマークだけがこちらを見ていた。

「みんなで寺院みたいなとこ行くんじゃなかったっけ」

「それ途中で抜けてさ、リベンジさせてくれない?」


「好きにしろよ」

「付いてきてよ!」


「勝手に行けよ」

「俺はじっくり選びたかったのにあいつらが急かすからこんな辛い思いをしたんだ!俺は完全に納得するまで選びたい!」


「何で俺がそれに付き合うんだよ」

「俺が英語出来ないからに決まってるだろ!」


「出来ないよ俺も、TOEIC480点だし」

「俺の倍じゃん!」




芸術系の大学だったからか、勉強ができる奴はほとんどいなかった。
いや、いるにはいたと思うんだけど僕たちと仲いい連中には一切おらず、海外では僕の高校1年生くらいの英語力が重宝されるレベルだった。

自分の欲望に誰よりも忠実な目の前の男は、僕を道具としか思っていないみたいだった。

翌日の夜2人でタクシーに乗り込み、

「It’s money!ゴー!」

という稲田の不安なオーダーを経て、僕らはタイの吉原とも言えるそういう街にたどり着いた。

「ここにゴーゴーバーがあるんだね」

「うん、でも調べたんだけどテーメーカフェってのが良いみたい」


「それはなに?」

「出会いカフェみたいな感じらしい、女の子が普通に立ってるから直接話して交渉するらしい。そこの方が感じの良い女の子を見つけられると思う」



なるほど、遠くで踊ってる子を番号で呼ぶよりお金もかからないし効率的だ。ただ、システム化されたお店と違って個人との交渉なので難易度が高い気がする。
そのことを伝えると

「任せたよ!」

と言われた。俺はなんのためにこんなところまで来たんだろう。


地図で調べ、結構歩いて僕たちはテーメーカフェに着いた。

中で必ずドリンクを買うルールだ。とはいえ物価が安いのでビールが200円くらいだった。
事前に調べたところ女の子を連れ出すのも5000円~8000円くらいらしい。
やたら安い。それも交渉次第といったところなんだろう。

中にはタイの女性が50人くらいいて、目が合うと手招きをしてくる。
そして男性たちは気になった子に話しかけて、交渉しているようだった。

ちょっとした異空間に緊張しつつ、僕たちは歩を進める。

急ぐ必要はあった。

稲田の付き添いってだけじゃあれなので僕も好みの子がいれば......とは思ったのだが、僕らが行った時間帯はピークタイムからは外れていた。
かわいい子はすぐに連れ出されるだろうから、正直言ってかわいい子が少なかった。

稲田はウズウズした様子で少し早歩きになった。競歩くらいの速度で歩き出す。

「とりあえず交渉してくるよ!英語不安だから聞いててほしい」


「わかった」


そうして彼は近くにいた女性に近づいた。さっきのタクシーであいつの英語力はわかった。
交渉って難しいと思うんだけどどうやって切り出すんだろう。
俺も自信ないけどまあ助けられそうなら助けよう。

そう思いながら注視していると、彼は大きな声でハキハキと話しかけた。




「オリジナル、バスト?」



何を聞いてるんだよ。偽乳どれだけだ嫌だったんだよ。女性の胸を指差すな。


稲田は壊れた機関車の様に、ほぼ全ての女性に「オリジナルバスト?」と聞いて回った。
キレイめな人やそうでない人、若い人やおばさんなど色んな女性がいたが彼には関係無いらしい。
ほぼ全員に聞いていた。すごいエネルギーだ。

女性の反応はマチマチだった。
「まあ!」みたいな顔をして去る人もいれば、偽乳だと認める人、胸を持ち上げて「ナチュラル」と言う人もいた。

そしてその失礼な質問に笑顔で「偽乳じゃないよ」と答えてくれた人に、稲田は次の質問を繰り出すのだ。




「キャンユーグッドサービス?」



違うよ交渉ってそういうのじゃないよ値段とか話すんだよ。


彼の失礼な質問に、不快感をあらわにする人もいた。稲田は全く気にする様子も無く、次から次へとその2つだけの質問をしていった。

そして1人だけ、正直に言って全然可愛くない、なんなら年齢もだいぶ上の方であろう女性が少し顔を赤らめ答えてくれた。


「Yes...Good service.///」




いい人そうな反応だった。
稲田はパアッと笑顔になり、僕の方を向いた。

「どうやら、決まったようだな」


すごくかっこいいセリフを吐いてくる。決めたのはお前だ。


「交渉して値段決めてくれ」


「いいの?いやお前がいいならいいんだけどさ」

「早く、もう待ちきれないの」




なんでコイツが外人の女みたいなセリフを吐くんだと思いながら話をすると、早口で英語で喋ってきて何も聞き取れなかったから全部「OK」って言った。俺が来た意味は無い。

「ホテルまでの道で会話が無いのは気まずいから!」

と言われたので3人で店を出ると、先程のタクシーがいた。一緒にホテルまで向かい、彼らの入室を見届けてロビーの椅子で待っていた。
世界一無駄な時間。俺何しに来たんだろう。



待っていたらタイの食事のせいかすごくお腹が痛くなったので、フロントのお婆さんに説明してトイレを借りようとした。「はあ?勝手に使えば?」くらいの反応をされたので廊下の奥のトイレに入った。

Wi-Fiも入らない暗い個室で、手早く出ようとしていたら誰かがトイレに入ってきた。小便器を利用しているようだ。
出るタイミングがかぶるのはなんとなく気まずいので、そいつが外に出てから出ることにした。

水の流れる音、扉が開く音、立ち去る音。確認して外に出ようと個室のドアに手をかける。


「?」


開かない。ちょっとしか開かない。


「????!!!??!?」ガタンガタン


俺はパニックになった。個室の上の隙間から、半開きになっている扉が見えた。

説明が難しいのだが、個室のドアと入り口の扉は近くL字型に配置されている。入り口の扉がちゃんと閉まっているかちゃんと空いて入れば問題は何も無いが、斜めになるとそこがちょうどつっかえて個室の扉が開かなくなってしまうようだった。


「Help me! Doorlock! Autolock!」


高校一年生の英語力が光る。冷静に考えればホテルだから誰かしら利用するだろうとは思うが、暗くWi-fiも通じないタイのトイレに閉じ込められたのはすごく恐怖だった。廊下の奥の方にあり、フロントまで声が届いているかもわからなかった。

ガシガシと扉を動かすが、どうにも開きそうになかった。


「いつまでここにいなくちゃいけないんだろう」


密室は人を不安にさせる。普段の何倍も集中し、自らの置かれた状況に思いを巡らせる。
ここはタイ。日本語はおろか、英語もあまり通じない。一緒に来たのは稲田。常識はおろか善悪の区別もつかないから、間違いなく俺を探すことなく帰るだろう。
電波は通じない。誰かがここに来れば解決だが、ホテルってそもそも部屋にトイレとかあるから、あまり人が来ない気もする。

怖い。こんなことなら来るんじゃなかった。俺は本当に何しに来たんだ。稲田のせいだ。怖い。怖い。怖い。ここから出してくれ。出してくれ......


「ヘールプ!ヘールプ!」


そんなに大きくない声で助けを求め続けた。
そのわずか5分後。


「マキヤ?」


少し低めの稲田の声がした。こんなに安心できる声だったんだコイツ。知らなかった。

「......稲田!?開けてくれ!」

「ん?」




ガチャリ


ドアが開いた。安心感から少し涙が出そうになった。さっきは善悪の区別もつかないとか言ってごめん。君が早い人で本当に良かった。

個室から飛び出しふと稲田を見ると、おかしなことになっていた。

「いやー最高!本場のサービスだった!」



彼の口には、大量の口紅が塗りたくられていた。どんなサービスだったんだろう。口紅塗りたくられるの別に本場のサービスじゃないだろ。

ご飯をおごってもらいタクシーに乗り込み、僕たちは夜の街を後にする。
満足そうな表情で稲田は言った。

「また明日も行こうかな!世界遺産とか見るより、こっちの方が自分の世界観とか広がると思うし!ってか店じゃなくてその辺歩いてる人に交渉って出来るのかな?その場合来てくれる?」



監禁されるべきはコイツだと思った。



(おわり)


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マキヤ
テキストライター。電車で漫画を読んで泣く事が多い。涙腺が終わってるからほんわかした日常系漫画でも泣くのでいつも電車で泣いてる。

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@TwisterMakiya
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